偏差値40の公立高校から国立医学部医学科に合格した話〜宅浪を決断した有志たちへ〜

 宅浪の全体像

 宅浪とは、既存の塾を利用せず勉強をし続けることを指す。一般的には第一志望校の合格率が低いと言われがちだが、それは本当のところ分からない。なぜなら、塾に行っても志望校に落ちる者はいるし、1年間予備校に行ったのに志望校を下げる者もいるからである。予備校に年間100万以上かけて、1年間の時間を費やしてもなお、落ちる者は毎年いる。落ちても底なしに明るい性格の人間を除けば、スポットライトを浴びるのは第一志望校に受かった者だけで、声を大にして塾のおかげで合格した、と吹聴し、そこに残るのはあたかもその塾に行く=合格確実という雰囲気だけである。だが、塾に行くことがマストという雰囲気に呑まれずに一度立ち止まって冷静になろう。

 


 宅浪成功のポイント

ここでは第一志望校に合格することが成功と定義することにする。

【1つ目 自分を見つめ直そう】

 まず勉強の方向性などが間違っているという認識を強く持たないといけない。また今のあなたのやり方、考え方、目標設定、自己分析では、成績の飛躍は期待できないことを強烈に意識する必要がある。大手の塾に行けば、ある程度その部分を周りの人や塾側が担ってくれる分、正しく付いていけば甘々の自己分析でも成績の向上は見込めるかもしれない。だが、あなたは宅浪なのだから、それを自分で担う必要がある。だから、闇雲に「1日12時間勉強を1年間継続!」などのような目標はやめよう。

 では、見つめ直す方法として私がオススメなのが「参考書のレベルを2段階下げる」である。というのも、過去1年間の勉強を思い返して欲しい。どうだろう。常に焦燥感に背中を押される形で参考書などを決めて演習していなかったか。想定より点数が伸び悩んでなかったか。思い当たる部分がある人は「参考書のレベルを2段階下げる」ことを選択肢の一つとして残しておいて吟味してほしい。その上で不要であると判断した場合は自分のやり方で進めて欲しい。

【2つ目 基本を形にするまでには時間がかかることを受け入れよう】

 もしあなたが落ちて宅浪を決断した場合、飽きるほど基本を繰り返すと良い。なぜなら、自分はそこそこ出来る部類の人間だから今の参考書をやれば成績が上がっていくという根拠の無い思い込みをしてしまうと1年後、悲惨な結果に繋がるからである。宅浪の最も怖いところは、自分の方向性の間違いに気づきにくいところである。やっている本人は着実に合格に進んでいると思っていても、その答え合わせが出来るのは、第一志望校の合格発表の時である。つまり、高頻度かつ綿密な振り返りと適切な軌道修正を常にセルフで行えないと、1年後、地獄を見ることになる。直接的に点に繋がるわけではないかもしれないが、基本の部分を最優先事項として取り組むことで、定義や使い方の認識ミスに気付ける好機になる。セルフで認識ミスや方向性のミスに気付けることが宅浪にとって生命線とも言える。そして、その生命線に気付けない宅浪生は、1年間の成績の伸びが横ばいか微量の増減でほぼ落ちる。あなたが思ってる以上に、宅浪はやり方をミスする怖いことを事前に知っておこう。

 


【3つ目 焦って参考書レベルを上げないでおこう】

 宅浪は1人で勉強していくため、自分だけが遅れていると思ってしまうことがある。SNSYouTubeなどから情報が入ってくるたびに「このまま間に合わないかもしれない」という不安感に襲われる。だが、そこで周りと合わせて使用参考書のレベルを上げると昨年と似た状況になる。同じ結果で良いなら、周りに合わせたら良い。だが、成績を飛躍させたいなら周りがやっているから自分もそれをやる、という考えと距離を取るべきである。あなたはあなたの受験をやり切らないといけない。落ちた瞬間の感情や宅浪を決意したときに抱いた野心・希望を思い返して欲しい。決して周りに影響されてブレるようなものではないはずである。次こそは、自分の番号がそこにあって欲しい、合格という文字が出て欲しい、という思いを忘れてはいけない。昨年とは違う結果を得るためには変化が必要である。新しい風を自分に入れる必要がある。そのために、参考書を変えたい思いをぐっとこらえよう。

 


【4つ目 科目の優先順位を明確にしよう】

 浪人をしたらすべての科目を仕上げて完璧にしたいという欲が出てくる。だが、それは危険である。というのも、思っているほど時間が残されていないからである。例えば理系数学を仕上げるのにかなりの時間と根気強さが必要であり、長い目で勉強計画を立てる必要がある。国立大学の場合、6科目以上の科目を勉強することになる。そうなると、すべての科目に均等に時間を割くとなると、どの科目も中途半端な状態で本番を迎えることになる。それは避けたい。なぜなら、2次試験で使う科目はそうではない科目と比べて合否を左右する可能性が高く、中途半端な完成度だと運に頼ることになるかもしれないからだ。

 参考までに私の優先順位の付け方を紹介する。2次試験で使う科目と共通テストで使う科目の両方に含まれている科目(英、数、理)を最優先科目と位置付け、その次に共通テストの配点が大きく圧縮されない科目(私の場合、国語、社会)、最後に共通テストの点数が大学独自の点数配分で圧縮される科目という順番を付けていた。

 

私の宅浪体験談

 私は某大手予備校で浪人して、その後、宅浪で地方国立大学の医学部医学科に合格した。決してエリートではない。というのも、公立中学を卒業して、高校受験で偏差値48〜52の公立の商業高校に落ちて、偏差値40の公立高校に後期日程で合格した経歴があるからである。その高校で私が初めての医学部医学科に合格した卒業生であり、地元の国立大学に1人進学するだけで職員室がお祭り騒ぎになって英雄扱いされるような環境だった。

宅浪までを簡単に説明する。入学して半年で部活を辞めて帰宅部になる。高2の秋から受験勉強を始める。進研模試ではどの科目も50〜55だった。高3の5月に初めて河合塾全統記述模試を受けた。数学、英語、理科(物理化学)の偏差値は50〜52だった。高3の春で地元の国立大学の理学部がギリギリC判定くらいの実力。センター試験で英語だけ80%、他科目は50〜55%だった。そのときは京都大学農学部を受験した。なにがなんだかわからないまま終わった。ただの京都旅行だった。その後、地元にあった某大手予備校に入った。映像授業で未修分野をどんどん進めた。出来る人と同じ参考書を使うことを意識してやや難しい問題集を使った。河合塾の全統記述模試では、数学、理科(物理化学)、英語の総合偏差値が63〜66くらいを推移していた。国立医学部がD〜C判定くらいの実力。センター試験では直前の12月模試より50〜60点ほど高い点数で、去年より100点以上高い点数だったが医学部を受けて足切り。金銭的な理由から宅浪になる。

 ここまでが宅浪までのダイジェストである。自分に変化が必要だと思い、やり方、考え方、思いつくすべてを変えた。

 

数学は「合格る計算に似た計算のための参考書」や「数IIIの教科書」「繰り返し解く系の数III」「理系数学の標準問題Z会

 

英語は「レベル別の英文法③,④」「速読英単語」「基礎英文精巧」「地方国立の過去問」

 

理科は「宇宙一分かりやすいシリーズ」「リードlight物理と化学」

 

国語は「河合塾のマーク式問題集」「センター過去問(10〜15年分を3周以上)」

 

というようにレベルを一気に下げて飽きるほど回した。分かった気になるのを防ぐために解説を見たあとに自分の手を動かして再び解いた。

文系科目、特に英語リーディングと国語は模範解答の考え方を丸々言える状態を目指して、1問を飽きるほど復習した。仕上がってきた科目から「過去問」に移行していったが、各科目の仕上がり具合はバラバラなので、夏前に過去問へ移行した科目もあれば、秋頃から移行した科目もある。

共通テスト本番は前の年より+20%高い点数(+180点)を叩き出し、2次試験では数学、英語、理科のすべての科目で80%以上の得点を叩き出した。穏やかな雰囲気の面接を終えて、合格を確信した。そのため、合格発表で自分の番号を見つけた時は安心感の方が強かった。

 高校受験で偏差値50程度の公立高校に落ちた人間が国立の医学科に進学したのだ。たかだか大学受験だが、それのおかげで大きく人生を変えることが出来た。あなたもあなた自身の人生を大きく変えられる大学受験にして欲しいと心から願う。大丈夫。こんな僕でも出来た。きっとあなたも出来る。

 

 

(理数科目の『仕上がり』についてもう少し言及しておく。単に問題が解けるようになるより「各分野の言語化」「練習問題の解答までの言語化」が出来るようになるまで飽き飽きするほどやった。これが私なりの基準である。少しでも参考になれば。)